中学の「学びの多様化学校」指定に際して
昨年度、高校が「学びの多様化学校」の指定を受けましたが、今年度より中学校も指定されました。
ただ同じ「学びの多様化学校」と言っても、その内容は中高で大きく異なりますので今月はその説明をさせていただきます。
まず「学びの多様化学校」とは何かを整理しておきます。
日本の初等・中等教育(小・中・高)は「学習指導要領」に基づいて行われています。学習指導要領では各教科について学習の目的・内容・時間数などが細かく指定されており、各学校はこの学習指導要領に従ってカリキュラムを作成するのです。
もちろん生徒の力量によって学習指導要領の内容を習得しきれなかったり、逆に物足りなくなることもあります。しかし建前としてはあくまで指導要領の内容の習得を目的とし、指導要領に則らないカリキュラムを編成することは許されてはいません。
ところが現実には指導要領に則ったカリキュラムだけでは対応できない状況が出てきており、例外も認められるようになってきました。例えば国際的な科学技術人材を育成するために作られたスーパーサイエンスハイスクールでは指導要領の範囲を超える内容を取り扱うことが認められています。
そして近年の不登校児童生徒の増加という事態を受け、これまでよりも柔軟にカリキュラムを編成することを認め、多様な教育をあり方を実現するために作られたのが「学びの多様化学校」なのです。具体的には指導要領で指定された授業時数を少し減らしたり、学習の目的が変わらなければその実現にあたっては多様な手段を採用することが可能になりました。とは言っても自由になるのはあくまで一部分に限られており、他は学習指導要領に従う必要があります。そのため学びの多様化学校の指定を受けるためには編成するカリキュラムの案を文科省に提出し、基準にあっているかを審査してもらう必要があるのです。
一昨年、生野学園高等学校が文科省に提出したカリキュラム案は「学習の個別化」を目指すものでした。
ふつう学校のカリキュラムは学年ごとに履修する科目や単位数が決められています。しかし、これでは学習到達度が異なる不登校の子どもたちへの対応は困難です。そこで少人数制の特徴を活かし学年の縛りを無くすことで一人ひとりの学習状況にあった個別のカリキュラムを編成できるようにした案を提出したのです。これが認められ、文部科学大臣から多様化学校の指定を受けたわけです。
これに対し生野学園中学校が提出したカリキュラム案は大きく異なります。
目指したのは「体験的な学習の充実」です。授業時数も若干削減しましたが、メインとなるのは学習指導要領が掲げる目標を「体験的な学習」や「日々の生活」の中で達成していくことです。その内容は多岐に渡りますが以下いくつかの例をあげます。
例えば国語科の課題の一つに「話す・聞く」という項目があります。通常は授業の中でそうした場面を設定して実施しているのですが、寮生活をしている生野学園の生徒は定期的に行われる寮のミーティングでこうしたことを体験しているのです。ですからこれを国語の授業の一部を代替するものとして認めてもらいました。
また生野学園の周りには豊かな自然があり、みんなで川や山に行くことがよくあります。そこでは思いっきり体を動かしたり、自然観察をしたり、生物を捕獲したり・・本当にいろんな体験をするのです。その中で運動能力、自然に対する知識、さらには危険を察知する力といったものを身につけることができます。ですからこれを体育や理科の授業の一部を補完していくものと認めてもらいました。
また体育祭の準備でみんなで何かを制作したり、学園祭で模擬店を出したりすることは技術家庭の授業の一部を補完します。外国の料理を実際に作ってみてその文化を体験する活動は地理や家庭科の授業を補完するものです。さらに生物の個体数を調査することで数学の統計的分野を補完したり、寮の非常用電源の取り扱いを学ぶことで理科の電気の分野を補完する案なども出しました。
他にも各教科にわたり多くの案を提出したところ、一部については十分に補完できないのではという指摘もありましたが多くは認めていただけました。その結果「学習指導要領の掲げる目標を体験活動や寮生活を通して達成していく学校」ということで「学びの多様化学校」の指定を受けることができたのです。
ではなぜ「体験的な学習の充実」を目指したのかというと、日ごろ子ども達と接する中で「五感を通した体験的な世界の狭さ」を感じていたことが大きいと思います。
今の子どもたちはネットやゲームに関わる時間が長く、知識もYoutubeなどの動画から得ることが多くなっています。その分、実際に体を動かしたり、道具を使ったりする体験が少なくなっているように感じます。デジタル化された情報は知識を得るためには効率的です。しかし実際に体を使って試行錯誤をしなければ具体的な技能や勘は身につきません。ところが社会の中で実際に生きていくためにはどうしてもこうした技能や勘が必要になるのです。
さらにこれから先は、間違いなくAIが大きな役割を担うようになっていくでしょう。そうなれば人間に求められるのは言語化・デジタル化された情報ではなく「人間ならではの感じ方・共感力・直感力」といったものになっていきます。そして、そうした力も体を動かし、五感を使い、仲間と共にする体験でしか身に付かないのです。
ですから今後、学校がこうした状況に対応していくためには知識偏重の旧来の学習観を捨て、体験的な学習をより多く取り入れていくべきではないか。
今回、生野学園中学校が学びの多様化学校の指定を目指した理由はこうした考えからなのです。
ただ同じ「学びの多様化学校」と言っても、その内容は中高で大きく異なりますので今月はその説明をさせていただきます。
まず「学びの多様化学校」とは何かを整理しておきます。
日本の初等・中等教育(小・中・高)は「学習指導要領」に基づいて行われています。学習指導要領では各教科について学習の目的・内容・時間数などが細かく指定されており、各学校はこの学習指導要領に従ってカリキュラムを作成するのです。
もちろん生徒の力量によって学習指導要領の内容を習得しきれなかったり、逆に物足りなくなることもあります。しかし建前としてはあくまで指導要領の内容の習得を目的とし、指導要領に則らないカリキュラムを編成することは許されてはいません。
ところが現実には指導要領に則ったカリキュラムだけでは対応できない状況が出てきており、例外も認められるようになってきました。例えば国際的な科学技術人材を育成するために作られたスーパーサイエンスハイスクールでは指導要領の範囲を超える内容を取り扱うことが認められています。
そして近年の不登校児童生徒の増加という事態を受け、これまでよりも柔軟にカリキュラムを編成することを認め、多様な教育をあり方を実現するために作られたのが「学びの多様化学校」なのです。具体的には指導要領で指定された授業時数を少し減らしたり、学習の目的が変わらなければその実現にあたっては多様な手段を採用することが可能になりました。とは言っても自由になるのはあくまで一部分に限られており、他は学習指導要領に従う必要があります。そのため学びの多様化学校の指定を受けるためには編成するカリキュラムの案を文科省に提出し、基準にあっているかを審査してもらう必要があるのです。
一昨年、生野学園高等学校が文科省に提出したカリキュラム案は「学習の個別化」を目指すものでした。
ふつう学校のカリキュラムは学年ごとに履修する科目や単位数が決められています。しかし、これでは学習到達度が異なる不登校の子どもたちへの対応は困難です。そこで少人数制の特徴を活かし学年の縛りを無くすことで一人ひとりの学習状況にあった個別のカリキュラムを編成できるようにした案を提出したのです。これが認められ、文部科学大臣から多様化学校の指定を受けたわけです。
これに対し生野学園中学校が提出したカリキュラム案は大きく異なります。
目指したのは「体験的な学習の充実」です。授業時数も若干削減しましたが、メインとなるのは学習指導要領が掲げる目標を「体験的な学習」や「日々の生活」の中で達成していくことです。その内容は多岐に渡りますが以下いくつかの例をあげます。
例えば国語科の課題の一つに「話す・聞く」という項目があります。通常は授業の中でそうした場面を設定して実施しているのですが、寮生活をしている生野学園の生徒は定期的に行われる寮のミーティングでこうしたことを体験しているのです。ですからこれを国語の授業の一部を代替するものとして認めてもらいました。
また生野学園の周りには豊かな自然があり、みんなで川や山に行くことがよくあります。そこでは思いっきり体を動かしたり、自然観察をしたり、生物を捕獲したり・・本当にいろんな体験をするのです。その中で運動能力、自然に対する知識、さらには危険を察知する力といったものを身につけることができます。ですからこれを体育や理科の授業の一部を補完していくものと認めてもらいました。
また体育祭の準備でみんなで何かを制作したり、学園祭で模擬店を出したりすることは技術家庭の授業の一部を補完します。外国の料理を実際に作ってみてその文化を体験する活動は地理や家庭科の授業を補完するものです。さらに生物の個体数を調査することで数学の統計的分野を補完したり、寮の非常用電源の取り扱いを学ぶことで理科の電気の分野を補完する案なども出しました。
他にも各教科にわたり多くの案を提出したところ、一部については十分に補完できないのではという指摘もありましたが多くは認めていただけました。その結果「学習指導要領の掲げる目標を体験活動や寮生活を通して達成していく学校」ということで「学びの多様化学校」の指定を受けることができたのです。
ではなぜ「体験的な学習の充実」を目指したのかというと、日ごろ子ども達と接する中で「五感を通した体験的な世界の狭さ」を感じていたことが大きいと思います。
今の子どもたちはネットやゲームに関わる時間が長く、知識もYoutubeなどの動画から得ることが多くなっています。その分、実際に体を動かしたり、道具を使ったりする体験が少なくなっているように感じます。デジタル化された情報は知識を得るためには効率的です。しかし実際に体を使って試行錯誤をしなければ具体的な技能や勘は身につきません。ところが社会の中で実際に生きていくためにはどうしてもこうした技能や勘が必要になるのです。
さらにこれから先は、間違いなくAIが大きな役割を担うようになっていくでしょう。そうなれば人間に求められるのは言語化・デジタル化された情報ではなく「人間ならではの感じ方・共感力・直感力」といったものになっていきます。そして、そうした力も体を動かし、五感を使い、仲間と共にする体験でしか身に付かないのです。
ですから今後、学校がこうした状況に対応していくためには知識偏重の旧来の学習観を捨て、体験的な学習をより多く取り入れていくべきではないか。
今回、生野学園中学校が学びの多様化学校の指定を目指した理由はこうした考えからなのです。