電子工作とロボット部のこと
先日ひさしぶりに秋葉原の電気街に行ってきました。目的は電子部品の購入です。「東京ラジオデパート」「ラジオセンター」といった昔ながらの店舗群に足を運んだのですが、閉店してしまった店舗がある一方で今も健在の店舗も多く「まだまだ頑張っているな」と安心した次第です。
そして驚いたのは電気街に訪れていた人の多さです。強烈な暑さにもかかわらず、海外からの方も含め多くの人たちがそれぞれの目的のものを求めて歩き回っているのです。あらためてこの街の持つ不思議な魅力を再確認させられました。

実は自分が初めて秋葉原に行ったのは小学生のころで、もう50数年前のことになります。当時は「子どもの科学」や「初歩のラジオ」といった雑誌に夢中になり、そこで紹介されていた製作記事の中から気に入ったものを作るために部品を買いに出かけていたのです。まだまだ知識も技術も無く大したものは作れないので、実際に購入した部品は初歩的なものだけでしたが、お店に並んでいる様々な未知の部品はとても魅力的で「憧れ」を感じたことを記憶しています。
しかしその後、中学生になると自分の興味は釣りや沢登りなどのアウトドアに移行していき、電子工作はすっかり離れていきました。

ところが30半ばを過ぎて生野学園に来てからまた電子工作への興味が復活することになります。はじめて担任した生徒に電気関係のことが好きな子がいて、その子と話をしているうちに「面白そうだな」という気がしてきたのです。小学生の頃に埋め込まれた種がようやく発芽したようなものでしょうか。

とりあえず最初に作ったのは「自動水やり機」でした。当時プランターで植物を育てていた子がいて「夏休みは帰宅するので水やりが出来ない」と困っていました。宿直のスタッフに頼むのも手ではありましたが、どうせなら「自動で水をまく装置を作れないだろうか」という話になったのです。そこで電子タイマーを使って毎日定時になるとポンプを作動してポリタンクにた溜めてある水をまくという装置の制作を計画したのです。電子的な部分はまだまだ知識が不足していたので秋月電子が販売していた電子タイマーキットを利用しました。ですから作製にあたって苦労したのは水を散布する機構的な部分で「電子」というよりはただの「工作」に近いものだったと記憶しています。

ただこれを作ったことで、キットで使われていたPIC(Peripheral Interface Controller) というマイクロコンピュータの存在を知ることになりました。これは多くの電化製品にも使われいるものでプログラムを書き込むことにより自分の思ったように動作させることが出来るのです。しかも種類がとても多く、安いものは1個100円ほどで手に入るスグレモノです。
「マイクロコンピュータを使えばいろいろと面白いものが作れそうだ」ということがわかりすっかり興味が深まりました。そこでこの分野のエキスパートである後閑哲也さんの本を買って勉強し、いろいろなものを作ってみました。煙感知器、自作関数電卓、24時間の温度変化を記録できる温度計・・。どれも信頼性と効率を考えれば既製品を買ったほうがいいものばかりでしたが、この経験により、センサーなどから入力された情報をマイクロコンピュータで処理してディスプレイに表示したり、モーターなどを作動させるという基本の技術を習得できたように思います。

そうこうするうちにロボットに興味をもった生徒が入学してきました。1年の頃からいろいろ相談は受けていたのですが、その子が2年になるタイミングでロボット部(通称ロボ部)を立ち上げることになりました。部員2名、顧問1名の小さなクラブで、活動は週に1回です。
その二人と相談し「はじめはオーソドックスなものがいいだろう」ということでライントレースロボットを作ることになりました。
ライントレースロボットというのは曲線で描かれたコースに沿って自走していくものです。コースからのズレを光センサーで検知して進行方向を修正していくのがそのしくみです。車体はレゴの部品を使って制作し、制御にはAlduinoという小さなコンピュータを使用しました。ライントレースは多くの方が作られているので参考になる情報も多く、比較的スムーズに作成することが出来たように思います。ただ急カーブにも対応させるためにはセンサーの配置やプログラムの工夫が必要ではありました。
倒立振子ロボット
次にチャレンジしたのが「倒立振子ロボット」です。「倒立振子」というのは聞き慣れない言葉かもしれませんが「ひっくり返った振り子」という意味で、直立した長い棒を手で支え、倒れないようにするようことをイメージしていただいたら良いかと思います。実際にはセグウェイという乗り物のように2個のタイヤを使って倒れないようにバランスを取っていくのです。そのためには傾き角を検出するジャイロセンサーや傾き速度の増減を検出する加速度センサーなどを使ってロボットの状況を知り、倒れないようにモーターをコントロールすることが必要で、これにはだいぶ苦労させられました。はじめは一瞬で転倒していたのですが、試行錯誤を繰り返しプログラムをブラッシュアップしていくことでなんとか直立させることが出来るようになりました。

3作目は遠隔操作ロボットでした。ラジコンカーのようなものですが、ただのラジコンとは違って車体に搭載したカメラからwifiを使って画像を送り、スマホでそれを確認することでロボットが自分の視界になくてもロボットの「目」を通して操作出来るようにしたものです。車体はライントレースと同様にレゴの部品で作り、制御にはネットワークへの接続が必要なためにRaspberry Piというシングルボードコンピュータを使用しました。ハード面は簡単でしたが、wifiを通してデータをやり取りするためにはどうしてもネットワークの知識が必要で、それを学びながらプログラムを書いていったのでだいぶ時間がかかってしましました。
そのためこの時点で最初からの部員は2人とも卒業してしまい、次の年はあとから入った1人だけになってしまいました。
倒立振子ロボット
改造プラレール
プログラムの書き込み
その子と作ったのは改造プラレールです。プラレールの改造というとモーターを性能の高いものに入れ替えたり、作動電圧を上げたりすることがよく行われています。これにより確かにスピードは上がるのですが、カーブに来るとオーバースピードで脱線しがちです。これをなんとか出来ないかということで、車体の中に加速度センサーとマイクロコンピュータを組み込んで、カーブで横への加速度が検知されると減速するしくみを考えました。加速度センサーの使い方などは倒立振子ロボットの制作で身につけていたのでプログラム的な困難はありません。ただ苦労したのはプラレールの車体という狭い空間の中にセンサーやマイコン、さらにモーターをコントロールする半導体を組み込むということでした。なるべく隙間の多い車両を物色し、その形に合わせた基盤を作り、小さな部品を選んで取り付けることでなんとか完成させることが出来ました。こんなものを作ったのは他にはないのではと密かに自負しています。
(プラレールの改造は電気回路の知識がないとモーターのオーバーヒートなど発火の危険もあるので、それなりの経験のある方以外はしないようにお願いします。)

電子工作にしてもロボット製作にしても、その面白さは「こんなものを作ってみたい」とか「こんなものは出来ないだろうか」といった頭の中のアイデアを試行錯誤を繰り返しながら実現していく過程にあると思っています。キットであれば簡単に「制作する」楽しみは味わえますが、それはやはり他者が考えたもので、自分で一から作り上げるという醍醐味はありません。
時間もかかったし失敗もたくさんしたけどロボ部での制作は本当に面白かったと感じています。
残念ながらロボ部は3人目の子が卒業して以降「休部」状態ですが、また興味を持つ子があればいつでも再開するつもりです。
改造プラレール
プログラムの書き込み
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